擁壁とは?擁壁の耐用年数や工事費用、トラブル回避策をやわかりやすく専門家が解説

擁壁とは?擁壁の耐用年数や工事費用、トラブル回避策をやわかりやすく専門家が解説

擁壁(ようへき)とは、どんな構造物を指すかご存じですか?

擁壁は土地や住宅などの建築物を購入する際に、必ず確認したいポイントの一つです。

なぜならば、擁壁にまつわるトラブルが発生するケースがあるからです。擁壁付きの土地や住宅を購入する際に知っておきたいことを解説します。擁壁トラブルの回避にお役立てください。

擁壁(ようへき)とは傾斜地の地盤を支える壁

擁壁とは、傾斜地に土地を造成する際に斜面の崩壊を防ぐために設ける壁のことをいいます。土留(とどめ)と呼ばれることもあります。

擁壁の種類はいくつかありますが、一般的によく見かける擁壁は以下の3つです。詳細は後述します。

擁壁の種類特徴
コンクリート擁壁コンクリート構造の擁壁
練積造擁壁間知ブロックをコンクリートで結合した擁壁
空石積擁壁石を積み上げた擁壁

出典:国土交通省「宅地擁壁について」

擁壁は強度が重要

擁壁は住宅などの建築物などの地盤を支える壁ですから、強度が重要になります。擁壁の強度を確認するためには、規定に沿って作られているかを調査する必要があります。

建築基準法、宅地造成等規制法では、擁壁はどのように規定されているのか見てみましょう。

◆建築基準法を満たしているか

建築基準法とは、建物を建てる際の最低の基準を定めた法律です。敷地、構造、設備、用途などについて定めています。

擁壁については、建築基準法第19条第4項で規定されています。宅地の安全性を担保するために、土地に崖などがある場合、擁壁などの措置をとるようにとあります。

建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない

引用:建築基準法第19条第4項

さらには、安全性をより具体的にするために、地方公共団体の条例による制限の附加も定められています。建築基準法第40条、通称「がけ条例」と言われるものです。

地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途若しくは規模に因り、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによっては建築物の安全、防火又は衛生の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる

引用:建築基準法第40条

がけ条例の規制内容は、都道府県の各自治体によって異なるため、土地また建築物がある自治体の条例を確認する必要があります。

例えば、東京都の場合は、高さ2mを越えるがけに面した宅地には、2mを越える擁壁を作る。または、がけの高さの2倍以上の距離を離して建物をたてることと規定されています。

高さ二メートルを超えるがけの下端からの水平距離ががけ高の二倍以内のところに建築物を建築し、又は建築敷地を造成する場合は、高さ二メートルを超える擁壁を設けなければならない。

引用:東京都建築安全条例

◆宅地造成等規制法も確認

もう1つ確認したいのが宅地造成等規制法です。宅地造成等規制法とは、自然災害などの防災を目的として1961年に制定された法律です。

擁壁の設置に関する技術的基準に関しては、宅地造成等規制法第八条で規定されています。

擁壁は、鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造又は間知石練積み造その他の練積み造のものとすること。

引用:宅地造成等規制法第8条

擁壁が法律に適合しているかどうかは、国土交通省「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」や「我が家の擁壁チェックシート(案)」で確認することができます。ただし内容を正しく理解するためには専門的な知識や経験が必要となります。
安全性を確認する場合は、擁壁の専門知識をもつ専門家へ相談することをおすすめします。

出典:国土交通省「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」
出典:国土交通省「我が家の擁壁チェックシート(案)」

擁壁の種類|耐用年数

擁壁の種類別の詳細と平均的な耐用年数について解説します。

◆鉄筋コンクリート擁壁(RC擁壁)

鉄筋コンクリート擁壁とは、コンクリート作りに鉄筋が埋め込まれている擁壁です。RC擁壁ともよばれています。

鉄筋コンクリート擁壁には、現地で作る「現場打ち擁壁」と、できあがったものを組み立てて設置する「プレキャスト擁壁」があります。強度が強く、耐用年数も長いことから推奨されている擁壁です。

耐用年数:30~50年程

出典:国土交通省「6.宅地災害防止・減災に必要な取り組み」

◆練積造擁壁

練積ブロック擁壁とは、ブロックを積み重ね、コンクリートで固めた擁壁です。「間知ブロック積擁壁」「練積ブロック擁壁」とも言われています。石やブロックを斜めに積み重ね、コンクリートの重さで土を留めたものです。

練積ブロック擁壁はブロックの種類が多く、コンクリートだけでなく玉石などの自然石を加工したものもあります。形にもバリエーションがありさまざまな形のブロックがあります。

耐用年数:20~40年程

◆空石積擁壁

空石積擁壁とは、石やブロックを積み上げて作る擁壁です。目地にセメントを使っていない、または奥まで入っていないため、石と石の間は空洞になっています。そのため強度が弱く、現在は危険擁壁に指定されています。補強工事、または作り変えが必要です。

耐用年数:0年

擁壁工事の費用目安

擁壁工事の費用目安を紹介します。ただし、擁壁ごとに立地条件や経過年数などが違うため、擁壁工事の費用は違います。施工する業者によっても違いがあり、一律ではありません。そのため参考価格として補修工事と作り変え工事の目安を紹介します。

◆擁壁補修工事の場合

擁壁を作り変える必要がなく補修で済む場合の費用目安です。

ひび割れ補修
ひび割れ補修は、擁壁のひびが入った箇所に、専用の補修材を注入する方法です。
費用:3万円~/m程度

水抜き穴設置工事
水抜き穴設置工事は、水抜き穴を新たに作成する工事です。
費用:3万円程度/1箇所

石積補強工事
石積補強工事は、目地に特殊充填剤を注入し、ブロックや石の空間を埋める工事です。強度が強く、国土交通省が推奨する工事方法です。
費用:4万円~10万円程度/㎡

出典:(一社)日本擁壁保証協会「第15回 やばい擁壁!!工事内容と費用は?【補修編】」

◆既存擁壁の作り替え工事の場合

既存の擁壁を新たに作り替える場合は、築造工事の他の工事工程も増えるため、補修工事に比べて費用も日数も必要になります。擁壁の条件や環境によっては工事が1年以上かかるケースもあります。
擁壁築造費用:1㎡あたり10万円前後

さらに、足場の設置や既存擁壁の撤去作業、運搬、廃棄などの費用が加わります。かなり高額な費用が必要になることから、建て替えが必要なことがわかっていながら、工事を着工できないという事例も存在します。

出典:(一社)日本擁壁保証協会「第14回 やばい擁壁!!工事内容と費用は?【作り替える編】」

擁壁にまつわるトラブル事例

擁壁にまつわるトラブル事例を紹介します。擁壁に関するトラブルの理由はさまざまですが、自然災害や老朽化した擁壁が増加していることが考えられます。

トラブル1|水抜き穴トラブル

まずは擁壁自体に起こりやすいトラブルです。
水抜き穴トラブルは、築年数が長く古い擁壁に起こることが多いトラブルです。擁壁に設置すべき水抜き穴がない、または数が少ない場合に起こります。

水抜き穴は、地中にたまった水分を排出するための穴です。水抜き穴がないと水が抜ける場所がないため、擁壁の中に水分がたまります。
その結果、地盤が軟弱化し、隙間から水が染み出し、擁壁の劣化が加速します。擁壁が崩壊すれば、その上に建築された住宅などの建築物に危険が及びます。

現在は法律によって水抜き穴の設置や数は決められていますが、現法律の制定前に施工された擁壁に多いトラブルです。
古い擁壁の上に建築された不動産を購入する場合は注意が必要です。

トラブル2|近隣トラブル

次は擁壁の問題が引き金となり発生するトラブルです。隣地からの指摘で擁壁に「ひび(クラック)が入っている」さらには擁壁が「傾いている」など、擁壁に問題があることを初めて知る人もいます。擁壁の問題によって近隣との関係が悪化してしまうケースです。

擁壁の上に住宅などの建築物を構築した場合、隣地は擁壁の並びに建つケースがあります。下側の隣地となるお隣さんは、擁壁の変化に気づきやすいのです。一方で擁壁上の家主は、目にする機会が少ないこともあり、指摘されて初めて知るというわけです。

補修工事後も、合意が得られず、トラブルが長期化するケースもあります。

トラブル3|越境トラブル

越境トラブルも近隣トラブルの一つです。擁壁を設置した場所が隣地との境界線上、または境界線を越えていることで起こります。

所有権や管理責任をめぐって争うケースも見受けられます。擁壁工事には高額な費用が発生することもあり、両者の合意が必要となるため、擁壁工事が着工できないこともあります。
隣地トラブルについては、最終的には弁護士などの専門家に相談する場合もあります。

擁壁トラブルの回避方法

擁壁トラブルを事前に回避するための方法を確認しましょう。

◆擁壁付き土地や住宅は購入前に安全確認

擁壁付き土地や住宅を購入する場合は、擁壁の状態を確認することをおすすめします。前述した国土交通省「宅地擁壁老朽化判定マニュアル(案)」や「我が家の擁壁チェックシート(案)」で確認する方法もありますが、住宅会社や不動産販売先の仲介業者などに相談するとよいでしょう。わかる範囲で確認をしてくれることでしょう。

ただし注意したいのは、住宅会社や不動産業者に擁壁の専門家がいない場合もあるということです。

◆擁壁診断を擁壁診断士に依頼する

擁壁診断を専門家に依頼する方法もあります。宅地擁壁の専門知識をもった専門家が、現地に出向き擁壁が基準に適合しているかを調査してくれます。擁壁だけでなく擁壁の地盤調査を行ってくれる業者もあります。

新規での不動産購入時はもちろんですが、既存の擁壁をきちんと調査することで、トラブルやリスクを事前回避することができます

例えば、(一社)日本擁壁保証協会擁壁保証は、国土交通省のマニュアル・チェックシートを基に、擁壁診断士が擁壁を診断します。安全性が担保された場合は保証書の発行が可能です。もし、保証を付けた擁壁で事故が起きた場合は、修復費用及び第三者賠償保険が適用されます

擁壁診断の結果、補修工事が必要な場合は、工事内容の提案もしています。そして、対象擁壁の安全性の確認と箇所の指摘をまとめた報告書の発行もしています。

(一社)日本擁壁保証協会の擁壁保証の詳細はこちらからご覧いただけます。

日本擁壁保証協会の擁壁保証を導入するメリット

擁壁保証とは、擁壁の安全性を確保するための制度です。擁壁保証のメリットにはどんなことがあるのでしょうか。一緒に見てみましょう。

メリット1|費用負担の軽減

擁壁保証の導入は費用負担の軽減になります。
擁壁付きの不動産は、格安で販売されていることが多く、日照や眺望の良さ等のメリットもあります。しかし、安全性を確認することに難しさがあり、購入を避ける人もいます。

しかし、擁壁診断で安全性が確保できれば、安心して格安な土地を購入することができます

また、既存擁壁にクラックなどの問題があっても、専門家の診断で擁壁の再利用が可能だということが証明されれば、作り替える新設工事は不要となりますから、費用負担の軽減になります。

メリット2|リスクヘッジ

擁壁保証はリスクヘッジにもなります。
近年、擁壁が崩壊し、家などの構造物に被害を生じる、または人命にかかわる事故も発生しています。事故が起きれば、所有者が管理責任を問われることになります。

擁壁保証には第三者賠償の損害の補償もついているため、万が一のリスクヘッジにもなります。事前に擁壁診断、補修工事などを行うことでリスクを軽減させることができます。

メリット3|建築士が申請する建築確認の安全証明の裏付け資料として

擁壁保証は建築士が申請する建築確認の安全証明の裏付け資料になります。
擁壁診断士が擁壁診断を実施し、適合した場合は保証書が発行されます。住宅を建てる際や土地や建築物を売買する際にも安全証明として利用することができます。

メリット4|土地の有効活用

擁壁保証は土地の有効活用が期待されます。
きちんと診断を受けた結果、基準に適合している擁壁であること、または補修工事をした結果、適合する擁壁であることが証明されることで保証書が発行されます。安全性を証明することができますから、これまで販売が難しかった土地の売買促進につながることも期待できます。

導入事例

(一社)日本擁壁保証協会のサービスを導入した企業や行政の事例を紹介します。

擁壁保証の導入事例|西日本鉄道株式会社

擁壁保証付き分譲宅地:福岡県太宰府市「坂本三丁目」に位置する分譲地

大型の分譲宅地に擁壁保証を導入したのは、西日本鉄道株式会社です。

擁壁保証を導入したことで、以前抱えていた擁壁の安全性の担保という課題を解決することができました。

擁壁保証の加入を決断した理由は、①安全性の評価を得ることができ、②もしもの時は保証が適用され、更には③精神的な支えにもなる、ということでした。 擁壁保証がある土地を購入されたお客様も、安全性の証明を得ることができます。お客様の土地や住宅など不動産の付加価値の上昇が期待できる点も、大きなポイントでした。

補修工事の導入事例|東京都台東区

空石積み擁壁を接着工法で補修しました。空石積み擁壁は中が空洞になっていることもあるため安全性の低さが問題でした。

補修工事後に課題を解決したことで、住民の安全と安心を確保した事例です。

日本擁壁保証協会とは

(一社)日本擁壁保証協会は、「擁壁保証を通じて、住まい・地域・子どもたちの、安全で安心な暮らしの実現」を​目指し、設立された団体です。擁壁保証だけでなく地盤保証新規建物地盤保証既存建物地盤保証沈下修正後地盤保証などの保証システムの取り扱いがあります。

◆事業内容

日本擁壁保証協会の主な事業内容は 以下のとおりです。

  • 擁壁保証及び地盤保証各種の提供
  • 擁壁診断士の教育指導及び育成
  • 擁壁診断企業、擁壁補修企業との連携
  • 擁壁保証に関する普及啓蒙活動
  • 擁壁診断の補助金制度の検討及び要請
  • 新しい保証システムの構築
  • 各種展示会出展
  • セミナー開催 等

◆擁壁保証システムの取り組み

擁壁保証システムとは、擁壁に関する事故や災害が引き起こすトラブルを解消し、安全で安心な暮らしを守る保証システムです。 擁壁診断を行い、診断結果から、安全な場合は保証書を発行し、工事が必要な場合は擁壁補修工事の提案をします。

◆保証までの流れ

保証までの流れを見てみましょう!

監修者プロフィール

|監修者|
山下 晃平(やました こうへい)
一般社団法人日本擁壁保証協会 理事・擁壁診断士・1級土木施工管理技士・宅地建物取引士

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